要旨

医療機器業界のダイナミックな環境下では、新しい機器番号の導入や材料の変更など、サプライチェーンにおける小さな変更が、複雑で時間を要する一連のアクションを引き起こす可能性があります。まるでドミノ倒しのように、関連するすべてのプロセス、手順、文書がそれに続いて適切に配置されなければならないためです。そうでなければ、リーダーや品質マネジャーは組織全体の品質を測定、改善、保護できません。

すべてのデータポイントとプロセスが重要です。これらすべてを効率的に管理するために、ほとんどの医療機器企業は、以下の2種類のソリューションを採用しています。

  • 品質マネジメントシステム(QMS)
    サプライヤーデータ、インシデント報告、顧客からの苦情など、組織全体のプロセスとコントロールを追跡するシステムです。
  • 文書管理システム(DMS)
    品質に関連するすべての文書を保管・追跡し、文書の作成、承認、改訂、最終的な廃棄方法を管理するためのシステムです。

両システムは品質管理において重要な役割を果たしますが、それぞれが独立して運用されている場合、品質に対する新たな障害を生み出しかねません。システム間のギャップや遅れにより、企業の可視性、スピード、自動化など、それぞれのソリューションの利点を損なう可能性があります。

優れた品質管理プログラムは、品質管理と文書管理プロセスを統合しているものです。統合することで、両ソリューションの有効性を最大化し、透明性を高め、品質向上に焦点を当てた強力なコラボレーションを生み出せます。

品質管理の複雑性 

効果的に品質を管理するために、リーダーは品質に関する複雑な事象を追跡管理する必要がありますし、企業の品質基準からの逸脱したものは、可能な限り迅速かつ徹底的に追跡・調査・修正されるべきです。 

品質管理はビジネスのあらゆる分野に影響を及ぼし、また品質データは世界中のあらゆる場所からもたらされます。潜在的な品質への影響をすべて見つけ出し、追跡することは、控えめに言っても複雑で困難です。

品質の原因を特定することは、1つの工程に過ぎません。医療機器企業は、このようなあらゆる変更、実施、解決策も追跡・管理する必要があります。デジタルツールを使用することで、機械学習や自然言語処理のような、高度な機能を活用できるのです。

現代の業務の複雑さと規模を考えると、品質活動を管理する上で、手作業で行うよりもデジタルツールを使用するほうが効果的です。手作業と比較して、デジタル品質マネジメントシステム(QMS)は、以下のようなメリットがあります。

  • ・手作業によるプロセス報告に伴うエラーの時間とリスクを大幅に削減できます。
  • ・ より一貫した変更管理プロセスを提供します。 
  • ・ 重要なプロセスを高速化し、全体的な効率がよくなります。
  • ・関連する記録やイベントを検索、リンクするのが容易になります。
  • ・是正処置および予防処置(CAPA)管理を改善します。 
  • ・規制要件が満たされていることを、監査可能な形で提供します。
  • ・ステークホルダーや権限を与えられた認証ユーザーに、組織全体の品質に関する情報をより可視化して提供します。

デジタルツールを使用することで、医療機器企業は、機械学習や自然言語処理などの高度な機能を活用でき、品質に関するイベントや苦情をより迅速かつ正確に処理できるようになります。また、報告ツールは、さまざまなユーザーや固有の設定やニーズなどに合わせて調整可能です。

このように、医療機器企業は、デジタルQMSソリューションを使用することで、重要な品質アクションを記録するだけでなく指示もできるようになります。デジタルQMSは、相互に関連するプロセスをリンクさせる機能を備えているため、ある分野(原材料など)の変更が、製造ライフサイクル全体を通じて関連する反応を自動的に促せるのです。文書化やトレーニングなど、さまざまな影響を受ける分野においても、後続のアクションを起こすためのフラグを立てられます。 

複数の要求に応える 

多くのステークホルダーが品質情報を頼りにしていますが、そのほとんどは、製造現場では働いていません。QMSソリューションをデジタル化させてしまえば、さまざまなステークホルダーの要求を一度に満たせます。

  • ・ 製造部門はプロセスのどの段階においても、品質仕様の遵守または逸脱を確認できます。 
  • ・経営幹部は、監査可能な品質の記録を参照でき、それを戦略的意思決定、競争上の優位性の構築、組織の評判の保護に役立てられます。 
  • ・品質管理部門は、安全対策、コンプライアンス手順、消費者保護に関する事項が日々のワークフローに組み込まれていると確信を持って、規制機関に対応できます。 
  • ・法務部門は強固な追跡によって責任とリスクを軽減できます。 
  • ・営業部門とマーケティング部門はデータによって売り込みを検証し、「過剰な約束」を避けられます。 
  • ・最終的にエンドユーザーは、一貫して高品質な製品を受け取ることになります。 

文書管理の複雑さ

監督機関は品質測定の実施、および文書化について、厳しい基準を設けています。その結果、文書管理は品質管理と同様に複雑なものとなります。 

たとえば、米国食品医薬品局(FDA)は文書の署名・表示・保管方法を厳密に規定しています。規則21CFR11.50では署名された文書のハードコピー・ディスプレイコピー・電子コピーのすべてに署名者の印刷名・署名が実行された日時・署名の目的(レビュー、承認、責任、オーサーシップなど)を記載しなければならないと規定しています。 

しかも、技術的なプロセスが更新されるたびに、関連する全文書に対応しなければなりません。手順書・ハンドブック・トレーニングマニュアルなど、すべて更新し、少数のステークホルダーにレビューし、承認を得る必要があります。 

こうした複雑さを管理する(および、コンプライアンスを維持する)ために、医療機器企業には、以下のような文書管理戦略が必要です。

  • ・文書の作成と改訂のための標準的で反復可能な規定
  • ・さまざまな段階にあるときの文書の役割、所有権、アクセス権 
  • ・文書のライフサイクル全体を通じたセキュリティ
  •  ・不正文書や古い文書の防止・回収方法 
  • ・ CAPAプロセスおよび監査の透明性の要件 

業種や業務内容によって、文書管理はさらに複雑になるでしょう。たとえば、多国籍企業や複数拠点の企業では、文書管理の要件が何重にも重なる可能性があります。 

その結果、文書管理は手作業で管理するにはあまりにも負担が大きく、リスクも高過ぎます。人為的なエラーが起こる機会が多く、管理にかかる時間とコストも膨大です。 

デジタル文書管理の利点

デジタルDMSツールは、手作業に比べて多くの利点があります

  • ・ 組織はデジタルで管理される文書に対して、より厳重なセキュリティで管理できます。なぜなら、ログインとパスワードを要求することで、管理者は適切なレベルの権限を持つユーザーにアクセスを制限できるためです。 
  • ・管理者は、アクセス可能な文書や印刷可能な文書を全体的に制御できるため、承認前に文書を公開、配布されてしまうことはありません。 
  • ・すべての文書アクションを追跡するため、誰がいつ文書に変更やコメントを加えたかを簡単に確認できます。 
  • ・活動の電子ログを持つことで、説明責任が向上し、文書の紛失を防ぎ、古いバージョンを特定し、回収できます。 
  • ・文書が更新された際に、影響を受ける従業員に通知を行い、トレーニングタスクが必要だと知らせられます。

QMSと同様に、クラウドベースのソリューションには、さらなるメリットがあります。クラウドを活用することで、ステークホルダーは、場所を問わず文書にアクセス、更新、レビュー、承認でき、さらにリアルタイムでの共同作業も可能です。 

強みの統合

QMSとDMSのソリューションは、相互連携により、さらに価値を高め合えます。QMSは、主要な品質指標をプロセス・成果に結びつけ、DMSは品質アクション・文書ルール・トレーニングのような下流要件との間に、インテリジェントな連携を引き出すでしょう。 

品質管理システムと文書管理システムを統合することで、医療機器企業はそれぞれのプラットフォームの価値を最大限に引き出し、「総合品質」環境を構築できます。たとえば、文書管理は、監査や変更要求などの品質ワークフローとリンク可能です。品質に影響するすべてのアクションを一緒に追跡し管理できます。

統合で実現すること

  • ・ステークホルダーは、品質のあらゆる側面を可視化できます。 
  • ・品質管理者は是正措置をより迅速かつ効率的に実施し、リスクを低減できます。
  • ・相互に連携し合う品質管理プロセスおよび文書管理プロセスを、1つの包括的なワークフローで管理できます。
  • ・ 医療機器企業は、プロセス変更に伴う文書化やトレーニングの更新漏れのリスクを軽減できます。 
  • ・ 品質に影響を与える方針、プロセス、およびその他の文書について、より迅速かつ容易に協力して作業できます。

クラウドベースのソリューションを活用する組織は、その利点をさらに拡大できます。クラウドを利用すれば、品質へのアクセスや管理は物理的な工場や場所などの成約を受けません。さらに、組織は大規模で扱いにくいITインフラやアプリケーションに手を焼く必要がなくなり、品質の管理に集中できます。 

システムの統合により「左手が右手のしていることを知らない」という聖書の一節のようなケースを排除できます。企業が、一体となって高度な品質管理を目指しているのであれば、システムもそうあるべきです。システムは個々に運用するよりも、統合して運用するほうが、より強力になるでしょう。 

結論

医療機器企業には、品質管理業務の複雑さと規模に見合ったデジタルツールが必要です。最新のソリューションは、ありとあらゆる品質要件や文書化要件に適応でき、最大限の効率と効果を発揮します。

QMSやDMSのような品質ツールの統合は、それぞれのシステムに付加価値を与え、確かな相乗効果を生み出します。それぞれのシステムが他方のシステムを補完し、強化できるためです。その結果、パフォーマンス、コンプライアンス、可視性が向上し、さまざまなリスクを軽減できるようになります。